あなたの不動産の相続対策は間違いかも?!押さえておきたい2つのこと【不動産売却の教科書】
「相続対策として、アパート建築を進められた時に、何もしないと相続税が5,000万円以上かかると言われました。」
以前より弊社へ、しばしば相談頂く内容のひとつですが、最近になり相談件数が増えてきました。
相続と聞くと、資産をお持ちの方は耳が痛いと思いますが、実際は融資を受けてまでアパートを建築しなくても、相続税がかからないケースは多いものです。
何もしなくても、ほとんど課税されなかった相続税の為に、今までアパート経営をしたことのない方が、事業を始めるほうが私共としては、心配になります。
「相続税が多額にかかると言われた。アパートを賃貸すれば、相続税は大幅に縮小できる。家賃は30年間一括借り上げだから、任せておけば大丈夫。だから、アパート建築を行おうと思う。」と決めてしまう前に、まずは不動産についての相続税を正しく理解しましょう。
私の経験則ですが、大手不動産会社がアパート建築を進めてくる場合の資料には、「基礎控除4割減」や「相続税最高55%」と記載されていることが多いように思います。これらの文言を見ても焦らず、対応できるように、不動産にかかわる相続税について、わかりやすく説明していきます。
最後までお読みいただき、いざ相続を考えるときに、少しでもお役に立てれば幸いです。
相続税の基礎
税と聞くと難しく感じますが、相続税は比較的理解しやすいので、不動産に関わる部分のみに絞りご説明します。
相続税の速算表
(出典:三井不動産リアルティ)
上記は、相続税を計算するときに、利用する速算表です。相続税は、累進課税といい、取得金額が上がれば上がるほど税率が上昇する仕組みになっています。
冒頭に、「相続税最高55%」と記載しましたが、取得する資産の6億円を超える部分に加算される税率であり、冒頭のようなご相談者様に「6億円を超える資産をお持ちですか?」とお伺いしても、6億円を超える資産家の方はなかなかおりません。
最高税率55%という表記自体は、間違いではないのですが、重要なことは、あなたの相続財産に関する税率です。
相続税の基礎控除
つぎに相続税の基礎控除について、ご説明します。
改正前は、
(平成26年12月31日までに相続を開始した場合)
5,000万円 + (1,000万円 × 法定相続人の人数)
でしたが、改正後は
(平成27年1月1日以降に相続を開始した場合)
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の人数)
となり、基礎控除が4割減少となりました。
たとえば、被相続人の父から、資産を母・子供2人で相続したとします。
この場合の基礎控除は
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
となります。
つまり、相続資産が4,800万円以内であれば相続税の対象になりません。
では、実際に相続税を計算してみます。
相続税の計算
『事 例』
・被相続人(亡くなった人):夫
・相続人:妻・長男・次男■相続財産
①現金・預金 : 1,000万円
②株式 : 1,500万円
③不動産 : 1億円※■各人の相続する金額
・妻 :6,500万円
・長男:3,000万円
・次男:3,000万円※不動産について、居住用宅地・事業用宅地は特例があります(後述)。現段階では、特例利用後の金額として記事を進めます。
上記事例の正味遺産額は、1億2,500万円です。
まず、課税遺産総額を算出します。
課税遺産総額 = 正味遺産額 - 基礎控除額
事例の基礎控除額は、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円です。
課税遺産総額は、1億2,500万円-4,800万円=7,700万円となります。
続いて、相続税の総額を算出します。
相続税の総額では、まず法定相続分で分割したものとして各相続人の取得金額を算出します。
各相続人の取得金額 = 課税遺産総額 × 法定相続分
法定相続分は下記図を参照下さい。
(画像出典:税理士法人チェスター)
事例の各相続人の取得金額を算出します。
・妻 : 7,700万円 × 1/2 = 3,850万円
・長男 : 7,700万円 × 1/4 = 1,925万円
・次男 : 7,700万円 × 1/4 = 1,925万円
次に、相続税の税額の基となる税額を計算します。
相続税の税額の基となる税額 = 各人の取得金額 × 税率 - 控除額
※税率は、速算表を参照
事例に当てはめると、
・妻 : 3,850万円 × 20% - 200万円 = 570万円
・長男 : 1,925万円 × 15% - 50万円 = 約238万円
・次男 : 1,925万円 × 15% - 50万円 = 約238万円
相続税の税額の基となる税額を加算すると、相続税の総額となります。
相続税の総額 = 570万円+約238万円+約238万円 = 約1,046万円
最後に、各相続人の税額を計算します。
各相続人の税額 = 相続税の総額 × (それぞれが相続する金額 ÷ 正味の遺産額)
よって、下記のような計算になります。
・妻 : 約1,046万円 × ( 6,500万円 ÷ 1億2,500万円 ) = 約544万円
・長男 : 約1,046万円 × ( 3,000万円 ÷ 1億2,500万円 ) = 約251万円
・次男 : 約1,046万円 × ( 3,000万円 ÷ 1億2,500万円 ) = 約251万円
相続税控除と加算
最終的に税務署に提出する相続税は、各相続人の事情により、加算・減算を行い決定します。代表的なものを下記に記載します。
『 配偶者の税額の減税 』
配偶者は、法定相続分、もしくは1億6,000万円までの財産を取得した場合は、相続税はかかりません。
たとえば、事例の正味遺産:1億2,500万円のすべてを妻が相続したとしても、1億6,000万円までは、配偶者の税額の減税があるため、相続税がかかりません。(次の相続や遺留分の侵害などを考慮して決定してください。)
「法定相続分まで」というのは、たとえば事例のケースの正味遺産が10億円の場合、妻の法定相続分は2分の1なので、5億円相続したとしても(1億6,000万円を超えているが、法定相続分以内なので)相続税はかからないということです。
参照:配偶者の税額の減税
『 相続税の2割加算 』
被相続人の配偶者及び一親等の血族(直系卑属の代襲相続人を含む)以外の者が、遺言などで相続・遺贈により財産を取得した場合は、算出税額の2割増しの税額を納めます。
法定相続では、相続財産をもらえるはずではなかった甥や姪が遺言などで財産を得た場合、算出した税額が200万円であれば、2割増の240万円を納めなければならないというものです。
参照:相続税額の2割加算
今回の記事では割愛しますが、ご事情によっては適用されるものを下記に記載しておきます。
■その他の税制
・贈与税額控除 ・未成年者控除
・障がい者控除 ・年次相続控除
・外国税額控除 等
相続税額の算出
相続税の加算と控除を事例に当てはめると相続人各人の控除は下記のようになります。
・妻 : 全額控除
・長男 : 控除なし
・次男 : 控除なし
よって、各相続人の相続税は、
妻 : 金0円
長男 : 約金251万円
次男 : 約金251万円
となります。
以上が、相続税の算出の基礎です。もちろん、個人の事情によって異なるため、正確な金額算出は税理士に依頼することをお勧め致しますが、たとえ相続する資産合計が1億2,500万円であったとしても、相続税は500万円前後となるわけです。
ちなみに、500万円という金額は、アパートを新築すれば、諸費用で大半が消えてしまう金額です。相続対策を行う前に、相続税がどれほどかかるのか計算するようにしてください。
必ず理解してほしい不動産に関する特例
前述した事例の遺産の大半を占めるのは、不動産でした。実は、相続した財産の中で不動産が大半を占めるケースは多く、税制上の特例が利用できれば、評価額を最大80%まで減額することが可能です。
実際に特例を利用し、都心部で4億円の不動産を相続した際の相続税が0円だった事例もあります。
この特例は、一般的に『小規模宅地等の特例』と呼ばれており、不動産を相続する際に有利に働きます。わかりやすくご説明します。
小規模宅地等の特例の基礎
一定条件までの宅地を、被相続人(死亡した人)と同居している親族が相続した場合に適用されます。小規模宅地等の特例は、配偶者だけでなく、子供などの相続人も利用できます。
また、同居していない場合でも、相続人が不動産を所有していないなどの条件(賃貸で暮らしている場合等)を満たせば、小規模宅地等の特例を利用できることができます。(別記事:家なき子の相続方法を教えます)
では、小規模宅地等の特例を説明します。まず、下記図をご覧ください。
(画像出典:住まいのGoodNews)
図の中に、「特定居住用宅地等」と「特定事業用宅地等」と「貸付事業用宅地等」の記載があります。
相続した不動産によって、適用される内容が異なるため、簡易的に下記のように理解してください。
『自宅』を相続 : 特定居住用宅地等
『会社の土地』を相続 : 特定事業用宅地等
『アパート・駐車場』を相続 : 貸付事業用宅地等
今回は、特定居住用宅地等について掘り下げて、説明します。
特定居住用宅地等 (自宅を相続)
特定居住用宅地等に該当すれば、330㎡までの土地の相続評価額を80%減税することができます。たとえば、相続評価額2億円の土地を相続したとしても、評価額は4,000万円になります。
適用要件を下記にまとめておきます。
『 特定居住用宅地等の適用要件 』
※①~⑤のいずれかに該当する場合
<被相続人の居住に供されていた場合>
①配偶者が取得した場合
②被相続人と同居していた親族が取得し申告期限まで引き続き居住している場合
③被相続人に配偶者・同居していた法定相続人がいない場合、相続開始前3年以内に本人又は本人の配偶者の所有する家屋に居住したことがない親族が取得した場合<被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた場合>
④配偶者が取得した場合
⑤被相続人と生計を一にしていた親族が取得し、相続開始前から申告期限まで自己の居住の用に供している場合注1:軽減の適用を受けるためには、相続税申告期限までその宅地を所有している必要があります。
注2:申告期限までに遺産分割協議が終了していない場合にはこの特例の適用はありません。
一般的に利用される①~③についてわかりやすく説明します。
①配偶者が取得した場合:自宅を配偶者が相続した場合は、適用されます。
②たとえば、子供が親と同居していれば利用できます。特に、被相続人に配偶者がいない場合、子供が利用できる「最大の節税」ともいえます。
③いわゆる家なき子の相続と呼ばれるものです。子供家族が賃貸に住んでおり、持ち家がない場合に利用でき、「同居」が条件ではないのがポイントです。
相続税の税制は、人生を共にし、資産形成に多大に協力してであろう配偶者には、有利な規定となっています。
ポイントとなるのは、相続人が配偶者以外の、多くの場合「子供」だけになった場合です。子供はもちろん配偶者控除が利用できないため、小規模宅地の特例を活用することが重要になってきます。
追加して、小規模宅地の特例を利用するためには、相続税申告期限までその宅地を所有している必要があります。つまり、相続税の支払いのために売却してしまうと(所有権移転してしまうと)利用できません。しかし、相続申告期限を過ぎて1日でも所有していれば、適用されます。(税務署に確認したところ、本来の目的とはズレるが、利用できるとのことでした。)
小規模宅地の特例を利用し、相続税申告を行い、その後売却することで、相続税を大きく抑えることも可能です。
※相続税申告期限:相続発生から10カ月以内
ちなみに、被相続人が老人ホームに入所しており、相続開始直前において自宅に同居していなくても小規模宅地の特例は利用できます。
『 老人ホームなどに入居又は入所していた場合 』
次のような理由により、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等について、一定の要件を満たす場合には、特例の適用ができるようになりました。ただし、被相続人の居住の用に供さなくなった後に事業の用又は被相続人等以外の者の居住の用とした場合を除きます。・イ 要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が次の住居又は施設に入居又は入所していたこと
A 認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム又は有料老人ホーム
B 介護老人保健施設
C サービス付き高齢者向け住宅
・ロ 障害支援区分の認定を受けていた被相続人が障害者支援施設などに入所又は入居していたこと
(出典:国税庁)
その他の特例等の詳細は、この記事では割愛します(不明点はお気軽にご相談ください。)
まとめ
実際に、小規模宅地の特例等を利用できれば、相続税は大きく抑えることが可能です。相続税算出の事例(記事の最初の事例)では、この特例を利用した不動産価格を1億円としました。つまり、事例で利用した不動産価格は、特例利用前であれば評価額5億円です。
相続対策のためにアパート建築を行うことが本当に必要かどうか、少なくともこの記事の内容をご理解いただいてから判断しても遅くはありません。
今回も最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
不動産の相続に関しては、これ以外にも有利な税制は存在します。もし、相続した不動産の売却をお考えであれば、税制を活用し、結果的に売主様のお手元に残る金額が最高額になりますように願っております。
この記事を書いた人
- 山﨑 紘靖
- 過去に200件以上の不動産売却に携わり、 某大手不動産会社で営業成績No,1だった山崎が、 売却の専門家として、あなたの「最高額で売れた」をサポートします。
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